箱の中身は1
これは、だーさんが体験したことで、五本の指に入るくらい恐怖を覚えたという話です。
だーさんの実家は、地元では結構有名な武家の本家です(だーさんは継がないそうですが)。
私も、一度見に行ったことがありますが・・・まぁ、何というかドラマとかマンガでしか出てこないような広大な土地とお屋敷なんですよ。
日本史の教科書には出てきませんが、桓武天皇の時代から続いてる武家のようです。
その実家での話。
ある日、だーさんが蔵を掃除していた時。
ふと違和感を感じたことがあったそうです。
いくつかの蔵の中で、この1つだけが何故か内装が全く違う。
そういえば、建て向きもここだけが違う方向を向いている。
ここだけが、他の蔵とはだいぶ離されて孤立している。
そして、ここだけが長年掃除されていないのが見てわかる。
だーさんは、掃除もそこそこに切り上げて、当時の当主(祖父)に蔵のことを聞いてみたそうです。
しかし祖父は、蔵を建てた当時の土地の条件上そうせざるを得なかったとしか聞いていないし、いわくがあるとも聞いていない、掃除してないのは立て付けが悪くて開かないから、との返答。
納得の行かないだーさん。
何故なら、当時の方が土地は広く、わざわざ離したり向きを変えたりする必要はないと考えたからです。
ましてや、その蔵は他の蔵よりも新しい。
いわくは無いかも知れないが、何かおかしいと感じたそうです。
そこで、次の日の早朝からもう一度入って掃除をしつつ中を見てみようとしたのです。
別に立て付けが悪いということもなく、鉄扉はあっさり開きました。
妙なものが居る気配もありません。
祖父の言ったことは真実なのかな?と思いながら掃除を進めていたとき。
足元に違和感があったそうです。
そこだけ、床板の木目が違う。
強めに踏みつけると、足元のほうで反響音がする。
つまり、この下には何か空間がある。
やっぱり何かある、と確信しただーさん。
すかさず懐中電灯で照らしながら、開けられそうな場所を探していくと・・・。
木目込み細工のような形で、あるところを何ヶ所か同時に押すことで出てくるハンドルのようなものが。
思いっきり引っ張ってみると・・・。
案の定、分厚い床板の下には、階段が。
カビ臭い匂いを嗅ぎながら、懐中電灯で下を照らしてみると、そんなに深いわけでもないし、空間も広そうではない。
何より、嫌な気配も感じない。
慎重に下りて行くだーさん。
その空間は、広さにしてだいたい幅が3メートル、奥へ10メートルくらい。
階段を降りてすぐの床は、敷石。
左右と後ろには石壁。
奥は・・・。
絶対いわくつきとしか言い様のない存在が一つ。
牢屋でした。
広さは、3畳くらいだったそうです。
朽ち果てた木牢、いわゆる座敷牢とでも言うのでしょうか。
中は、やはり朽ち果てたわらのようなものと、そして場違いなくらい美しい布でくるまれた四角いもの。
だーさんは、興味をひかれ、その四角いものを手に取りました。
重くもないし、かと言ってスカスカの軽さでもなかったそうです。
布は別に縛ってあるわけではなく、四隅を軽く重ねてある程度だったので、難なく布を除去。
中にあったのは、蒔絵で装飾を施された桐の箱が。
別に何か御札が貼ってあるわけでもなく、嫌な気配もしないので、だーさんはあっさり開けてみました。
でも、中にはもう一つ赤ちゃんの握り拳くらいの小さな箱が入っているだけ。
これまた、何も感じなかったので開けたそうです。
瞬間。
溢れ出る異様な気配。
訪れる吐き気と悪寒。
止まらない震え。
そして。
箱の中と目が合ったそうです。
中にあったのは。
生きている人間からそのまま摘出して入れたかのような、眼球。
しっかりと、だーさんと見つめ合ったそうです。
さすがにだーさんも恐怖を覚え、気を失ったそうです。
気が付いたら、家の応接間だったそうです。
傍にはだーさんが『姉さん』と慕う近所の女性が(だーさんより相当霊力が強いそうです)。
姉さんは、だーさんが気付いたのに合わせ、中で何を見たのかを尋ねました。
姉さんにはめっぽう弱いだーさんは、包み隠さず全てを話したそうです。
すると、姉さんは穏やかに話し始めました。
あれは、かつてこの地を治めていた何代も前の当主の妹の眼球だ、と。