てんてんてまり

2013年08月17日 22:23

これは、リューネの話です。

 

小学生時代(学年忘れた)の、春頃の話です。

近所には、第二次世界大戦の慰霊碑が祀られた神社がありました。

 

学校から家までの道にあるということと、ブランコや滑り台などの遊具も付いている広い庭(境内?)もあったので、しょっちゅう遊び場にしていました。

しかし、その神社は俗にいう『出る』場所として有名でした。

空襲で焼け出された人達の姿が、夕方から夜になって現れるとか。

真夜中には空襲警報のような音が神社の中だけ鳴り響くことがあるとか。

慰霊碑にお供えをしたら、慰霊碑の中から手が出てきたとか。

水を求めてさまよう、大やけどをした人が歩いているとか。

まぁ、子供心に信じつつも信じ切れない話ではあったのですが。

 

それは、日曜日の朝方。

朝焼けに染まる桜を見に、友人達と一緒に神社に向かいました。

大きくて、立派な桜の木が、拝殿の裏手にあるのです。

そこで、陽に映える桜を見て、じゃぁこのまま遊ぼうかという話になったとき。

背後から歌が聞こえてきました。

ふと振り返ってみると、友人もみんな振り返ってある一箇所を凝視しています。

 

慰霊碑の裏側。

神社をぐるっと取り囲む壁と、慰霊碑との隙間(4メートルくらいだったかな)で、幼稚園児くらいの小さな子どもたちが鞠つきをしていました。

てんてんてんまり、てんてまり~♪と、歌いながら。

それだけでもある意味不思議な光景でした。

何故なら、このへんでは見たことのない子たちですし、色んな怪談と共通するのですが着ている服が戦時下のものでした。

しかも、一向にこちらを見ようとはせず、どの子どもたちも鞠だけを見つめています。

足はありましたけど、影があったかは覚えていません。

慰霊碑の陰に隠れていたからかもしれませんが。

 

そのまま、みんなも鞠に視線が釘付けになりました。

 

どこかで見慣れたような三色。

黒と、赤と、そして茶に近い肌色。

 

よく見ると、鞠は起毛しているかのようにも見えます。

 

更に良く見ると、鞠はあまり弾んでいません。

 

そして。

かすかにでも弾むたびに、

ビチャッとか、ペキッという妙な音が響いてきます。

 

『何してるんな、キミら?』

友人の中で、一番度胸があるとされていたAくんが唐突に尋ねました。

『なん、猫でも叩きつけとんの?気色悪い音しとーよ?』

縁起でもないことは聞かないでほしいものですが。

『ちょい、返事くらいしーよ?何でこんな時間に居るんさ?ちょい!』

ズカズカと近づいていくAくん。

 

すると、子どもたちがようやくこちらに目を向けました。

鞠は地面に落ちて止まりました。

 

瞬間。

友人達から凄まじい悲鳴が上がったのです。

Aくんも、鞠を見て固まっている。

みんな、鞠を見て恐怖を感じましたが、それ以上に子どもたちを見て更に恐怖を感じました。

 

鞠は、子供の頭でした。

 

子どもたちの中で鞠をついていた子には、頭がありませんでした。

それを眺めていた子どもたちは、炭でも塗りたくったかのように表情が真っ黒でした。

 

しかし。

逃げられない。

みんな足がすくんでしまったのか、誰もが動けずにいたのです。

 

子どもたちは、じっとこちらを見つめている。

これは危険なのかな・・・?と思っていたその時。

『なん、どうしたん!?怪我でもしたんか!?』

母屋から宮司さんが飛び出てきて、声を掛けてくれたのです。

パッとそちらへ向く私達。

走り寄ってきて、たどたどしい事情を聞いてくれる宮司さん。

うんうん、なるほどな・・・と呟いたあと、こう言いました。

遊び道具も供えてやるかあ~、と。

 

今振り返ると、そう言う問題でもないような気がするのですが、宮司さんはこう説明してくれたのです。

慰霊碑には、老若男女大勢の人がまつられている。

中の子どもたちは、あまり人数が多くないから外に出て遊びたがってたんだろうな、と。

 

後日、慰霊碑の前にはボールやお古の自転車などが供えられることになったのですが。

 

怪談が増えたのは言うまでもないことでした。